【特集】展示が作家を強くする。iPhoneケース展に参加するメリットとは/アートディレクター HAL_

iPhoneケース展のアートディレクター、Artist HAL_(アーティスト ハル)。これまでに、デザイン・デジタル絵画・アート展プロデュース・グラフィックツールハウツー本などの出版に関わる仕事をしてきました。現在はデジタルハリウッド大学の教授として、学生達の研究サポートを行っています。「最近は、デジタルだけでは無い、アナログ表現の新しい方向性を見つけるべく作品制作をしている」という彼に、iPhoneケース展の魅力や、作家が得られるメリット、人との関わりについて聞きました。

– iPhoneケース展の「アートディレクター」の役割を教えてください。

作品展示の全てを管理しています。作品のキャンバスとなるiPhoneケース・ベースキットの配送、作品の受け取り・管理・整理。そして、展示・設営のアートディレクションです。その他、作家から寄せられた作品制作についての質問に答えることもあります。また、ユーザーグループの運営や@LINEの配信を通じて、主催側と作家が交流を深めるられるよう配慮し、さまざまな取り組みを行っています。

-会場には、どのような方が作品を見に来られるのでしょうか。

会場にいらっしゃる方は老若男女、様々です。展示作品を見て、「楽しい」「面白い」「恐い」「欲しい」「可愛い」など様々に楽しんでいらっしゃいますね。ガレージセールや学園祭を楽しむような、ひとときを得られているのだと思います。また、毎年ワークショップに必ず参加してくださる親子もいます。

-iPhoneケース展には、100名を超える作家が参加していますが、どのように見つけているのですか。

一般公募なので、告知を見て参加してくれる方がほとんどです。週末はアートやデザイン系のイベントに通い、作家をスカウトしています。思いがけない作品との出会いもありますし、こちらから「こんな作品を作ってみてはどうか」と作家にプレゼンしたり、その場で意見交換を交わすこともあります。

-参加者・作家にはどんな人がいるのでしょうか。

本当に様々です。アーティストはもちろんですが、イラストレーター、デザイナー、工芸家、サラリーマン、ミュージシャン、ダンサー、等々、年齢も様々です。どのような方でも、制作意欲のある方は受け入れています。

-ほかの「展示イベント」とiPhoneケース展が違うところはどこでしょうか。

共通のテーマを設けたアート展はよくありますが、ケース+フレームという、共通の「ベースキット」を使った展示は珍しいですよね。さらに、そのキットの中で、自己表現を完結させる必要があります。また、作家の積極性・自主性を重んじているのも特長の1つです。制作、展示から始まり、期間中の会場内見回り、来場者への声がけ、作品撤去までを作家が行って欲しい、と作家に依頼しています。こうした動きは、本来個展でするもの。我々のイベントでは、作品ひとつひとつが個展会場と言うスタイルなんです。

– 「アーティストを支援するイベント」とは、具体的に何を指しているのでしょうか。

このイベントは、iPhoneケースをキャンバスに、作家が自己表現をする展示会です。通常のアート展では、作品タイトルと価格のみが掲示されていることが多いですが、iPhoneケース展は少し違います。作品横に必ず、解説とプロフィールをA5パネルで展示するのです。これは、セールスプロモーション、つまり自らを売り込む力をつけることが、作家にとって重要な要素だと考えているからです。来場者は、このプロフィールを読む事で、”作家の人となり”を、捉えることができます。解説がある事で、作品への理解も進みます。作家は「作品を見ただけで分かって欲しい」と思うものですが、意外にも、見ただけでは伝わらないことも多いですからね。私達は、作家の個性を少しでも多くの人に知ってもらい、作品制作に対する気持ちを作品からだけでは無く、文章でも読み取って欲しいと思っています。

-ベースキットに、A4サイズのフレームがついているのはなぜでしょうか。

作品を創る上で、サイズは重要な要素の1つです。手のひらに乗るiPhoneケースにはスペースの限界があり、作家の表現を妨げることもあります。そのため、物理的な限界を、少しでも広げようとフレームをつけました。最近はフレームがある事を逆手に取って、その限界を超えた空間の使い方をする作品も出てきています。作家にとって、表現に限界はありませんからね。

-展示作品は、どのような手法で作られているのでしょうか。

一概には言えませんが、平面表現では手描き作品、デジタル出力、コラージュなどの手法が多いですね。立体表現では粘土を使ったり、造型樹脂、金属など。コンセプチュアル表現ではビニールや包帯を使った作品もありました。過去には、造形に初めて挑戦したプロミュージシャンが、東急ハンズに通い、手法などを学びながら完成させた作品もありました。

-なぜ「価格をつけること」をルールにしているのですか。

私は、作家が作品に対し、客観的な視点を持つ事が大切と考えています。作り手と見る人との間に、分かりやすい共通意識を持たせるのが価格です。一度掲示した数字は変更が効きません、自らの価値を自らが与えると言う事はどういうことか、考え悩んで欲しいのです。その刺激は、次の作品づくりへの大切な要素の1つになるでしょう。

-学生の参加も多いということですが、理由はなぜでしょうか。

若い人達に作品制作、そして展示する楽しさを知ってもらいたいという思いがあり、初回開催時から学生へのアプローチを行っています。そのため、学校で説明会を開催したり、「iPhoneケース展への作品制作と出品」を授業として私が受け持つこともあります。学生は、単位取得とイベントへ参加が同時に可能になります。学生参加は年々増えており、2015年度は国立台湾科技大学の学生達の作品も展示しました。

-過去に面白かった作品を教えてください。

美意識の高い作品も好きですが、伝統や技術にとらわれない冒険心ある個性あふれる表現が好きです。これまでに、私の心をつかんだ一番の作品はサボテンが生えた作品。その他にも焼き物を使った「iPhoneケースくんのひとやすみ」も良いですね。また、昨年は最優秀作品の「獰猛」が、ケースを貫く圧倒的な表現で、群を抜いていました。

-何故、展示から見回り、撤収まで”自分でやる”必要があるのでしょうか。

もし作家が、個展を開催するとしたら、どうでしょう。会場で”100%他人任せ”なんて、あり得ませんよね。それと同様に、ただ作品を並べるのでは無く、どう見せたいのかを本人が考えて、作業することが大切だと思うんです。重要なのは「自分のイベント」という意識を持って貰うこと。もちろん、たくさんの作品が展示されますから、全て思い通りにはなるわけではありません。でも、その制限の中で「どうアプローチしていくか」を考えることも、作家を成長させる要因になるのではないでしょうか。

作家同士のコミュニケーションが深くなるのも、展示や撤収の時です。私は元来人と話すのが苦手でしたが、年々人前で話しをすることが求められるようになり、たどたどしくても話すようになった時に、やはり言葉は大切なんだと気がきました。

きっかけは2001年に飯田橋にある東京日仏学院での大型展示ディレクションでした。その時は知人を頼り、EPSONや富士通、アップルのマーケティングに初対面で協力を請いに行ったんです。今ではそんな大胆なことは出来ませんが(笑)。でも、そのおかげで参加作家同士のコミュニケーションも強くなりましたね。結果は会期が半月も延びた大成功企画で、オープニングにはフランス大使館や各界著名人達が集まってくれ、自分でも大満足でした。

iPhoneケース展での展示やオープニング、搬出に参加することは、コミュニケーションすることで作品に対する新しい考え方を自分に取り入れるきっかけにもなりますし、単に横に繋がるだけでも大きな刺激があると信じています。飲み仲間を作る位の気軽な考えだけでも、良いじゃないですか。

-展示日はどんな雰囲気で行われるのでしょうか。

開催地によって異なりますが、開催前日の15時から19時まで、またはオープン前の3〜4時間を、作家の展示時間としています。当日は事務局が中心になり、基本設営、作品展示から照明の吊り下げまで行います。ありがたいことに、最近は常連の作家陣が中心に立ってくれていますね。予定がどうしても合わない作家には、事務局による展示代行(有料)も行っています。展示が終わったあと、授賞式とオープニングパーティーです。出展企業の皆さんも参加される、自由な形での交流会です。会場内には常に笑顔が絶えません。

イベントが終わった当日は、近くの居酒屋でお疲れ会をやります。毎年「楽しかった」「来年はいつですか」等という声が聞かれます。作品展示だけの作家もいますが、積極的に会場に顔をだすことに意義を感じている作家も多くいます。他の作品から刺激を受けた作家は、次の年に、必ずモチベーションの高い作品を作ってくれます。

-横浜赤レンガ倉庫での開催以外で、作家同士の交流はありますか。

iPhoneケース展が終わった後は、参加企業の方やメディアの方も含めた温泉旅行を開催しています。ゆったりした温泉宿で過ごす時間は大好評で、朝まで語り明かすことも。その他、小さな交流イベントや、アーティストサロン、勉強会を開催しアーティスト同士のコミュニケーション活発化を図っています。また、Facebookのユーザーグループで意見を交わすこともあります。

-過去に、iPhoneケース展をきっかけに成功した人はいますか。

何を持って成功と言うのかは分かりませんが、展示作品が企業の目にとまり、iPhoneケースが製品化されることがあります。会場で得た繋がりを元に、デザイナーとして就職が決まった人もいました。また、展示作品のイラストが人気呼び、数々のグッズを生み出し、多くのファンを得た人もいます。創造する、という観点で見れば、年々作品と共に人間的に成長し続けている作家もいます。成長を続ける作家が増えているのを見るのは、とても嬉しいですね。

-このイベントに参加することで、得られるメリットはなんでしょうか。

作家と言うと孤立しがちなイメージをお持ちの方が多いと思います。でも、私は人間的な繋がりの多い作家の方が、魅力ある作品を生み出せるのではないかと思っています。iPhoneケース展では、気の合う作家と繋がることができる、作家同士が切磋琢磨出来る環境が得られます。また、自分の作品を不特定多数の方に見て頂き、作品に対する客観的な意見を手に入れられることがメリットではないでしょうか。

ありがとうございました。

▼iPhoneケース展に参加してみたい方は、こちらから▼
http://iphone-caseten.com/2018_join_artists_a

皆さんのご参加を、お待ちしています!

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