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新着公式レポート

2017年度受賞作品講評

2017年10月9日

2017年度のiPhoneケース展が終了したところで、アートディレクターとしての講評を記す。

今回は100点あまりの学生作品が応募され、その中から選抜された15点が展示された。ここで、学生優秀賞1点と奨励賞2点を紹介する。

2017年度iPhoneケース展学生部門

学生優秀賞:The seaside

作者:瀬手(ヨコハマデジタルアーツ専門学校)
作者の形を追い色彩を構成する目に、非常に優れたものを感じる。作品と共に掲示されたプロフィールボードに並ぶ、様々な幾何学模様の美しい作品を見れば、作者の持つ感性がわかる。
作品からは現在作者が受けているデザイン教育を元に、新たな世界感を生みだそうとする姿が見受けられる。学生においては、こうした冒険や数多くの実験が大きな肥やしになるだろう。

作品はメルトクレヨンを使用し、創造された色面を直線で切り取り、様々な断片を制作するところから始まっている。iPhoneケースの上にはその断片を用いた色構成により、ランダムな色彩の変化を生みだしながら、陽光に煌めく海面の姿を描いている。周囲に散りばめられた、ブルーのディスクとの対比が気持ち良い。

構成されたケース表面をじっと眺めていると、海面では強い夏の日差しが煌めき、陰の部分で海中が垣間見える。そのマリンブルーの色から、見え隠れする魚たちが海藻の間を乱舞しているのがうかがえる。深く静かなこの海は、安らぎや癒やしの力が見いだせる。

学生奨励賞:何年経っても若くいたい

作者:小野寺望(ヨコハマデジタルアーツ専門学校)
黒く塗りつぶしたフレームに、針金で制作した頭蓋骨。下から伸びた手がiPhoneを支えている。頭蓋骨は死を意味することが多いが、この作者は、身近なキャラクターとして捉えているようだ。

扱いづらい針金をあえて使い、網の目のように組み上げた作者の真意は不明だ。私なりの解釈だが、金属の中でも、暖かみのある素材感を持つアルミの針金を使うことで「死」を悲痛に感じさせていない。アルミの針金の柔らかさにより、線が踊り、コミカルに見え、その世界感に繋がっているのだろう。

スマホを楽しむ若者達の「生」と、骸骨が見せる「死」を関連付けたような作品ではあるが、作者が本来持っているであろう楽天的な陽気さが全面に出て小気味良い。背面を暗くすることで、主体になる骸骨だけに集中出来るような工夫がされていて、見る人を楽しませる。

学生奨励賞:鮭 -SAKE-

作者:平田友梨香(玉川大学工学部:小酒井研究室)
イメージと言う物は自らが生み出すモノで、他者から強要されるモノでは無い。だが作品としては、他人と共有イメージを持たなければ意味を持たない。そのバランスの中から作品は生み出されていく。

プロフィールを見てみると美術教育は受けたことが無く、現在はマネジメントコントロールを研究しているようだ。私は常日頃「美術教育の根本は、他者との関わりを大切にしていく中から生み出されていく」と信じている。この作者の表現技術は稚拙だ。だが自身の研究の中から、他者と自分の関わり、有り様を学び、形の中に表現しようとする姿が感じとれ、非常に好感を持った。

中心のオブジェクトは腹子を抱いた鮭、その鮭が力の限り登る急流を透明感のあるビー玉を使い描かれている。まるで、自らが登り行く社会と自分(鮭)との関わりを表しているように見える。この作者には急流を上りきり、新しい形を生み出す数多くの”腹子達”を、市場に根付かせて欲しいと願う。

2017年度iPhoneケース展 一般部門受賞作品

アートディレクター賞:ヤモリ

作者:ヒデトシ(造形屋)
この作家の本分は造形師だ。ここ数年の作品を見てきたが、力量を発揮しようとし過ぎたせいか、その想いとは逆に、浮ついた、実態のない作品が多かったように思う。しかし今回は、いい塩梅に力が抜けたのか、本来の技術と iPhoneケース展に対するアイデアが非常に優れた形で表れている。

「ヤモリ」という素材に対する思い入れを知る事は出来ないが、影の様にも感じられるヤモリの存在感は作品の中から湧いて出て来る。背景の色彩とケースとのコントラスト、何よりも透明なケースの中に忍ばせた銀色の素材感がケース自体に重厚感を与えている。願わくば、この質感・外観のプロダクト製品を製作してくれる企業が表れてくると嬉しいのだが。

作品賞:ika-Phone タウリンパワー

作者:牧野ちょり(オブジェ作家)
この作家は、クオリティーの高さと個性とがバランス良くまとまった作品を作り続けている。過去にも最優秀賞を受賞したことがある常連作家だ。ペットボトルなど、身近にある多彩な素材を使って制作するスタイルと、積み重ねられたアイデアが秀逸だ。一度、彼の作品群を、一挙に羅列して展示したいと思っている。

今回の作品タイトルは「タウリンパワー」。タウリンはご存じの方も多いだろうが、青魚や貝類に多く含まれるアミノ酸だ。肝機能や目の機能アップ等、まるで万能薬のような健康効果を持つと言われている。まさにその成分のひとつひとつを、足の一本一本に例えたような存在感のある作品だ。この足の中には作家自身の多様性を忍ばせているような気がしてならない。これからも素敵な作品を作り続けていって欲しい。

表紙賞:conratulation

作者:YUMICO HARA(イラストレーター&アーティスト)
iPhoneケースは平面なのだろうか、立体なのだろうか。現実的に考えれば立体である事は間違いないが、この作者はそこに疑問点を感じている。私は、アートというモノは確定的な要素を不確定に捉えつつ、自分というフィルターを通して新しい不安定な揺らぎを加えたモノこそが心を打つと考えている。

人は、日常的に刺激を受け続けるとことで、抵抗力が付いてしまう。そして、小さな刺激の感覚は失われていく。アーティストはその小さな刺激にも、大きな感動を覚え、その感動を目に見える形に整えていく。この作品は、力強い色彩感の中に、動きある幼子達の成長する姿をまとめ上げ、ひとつの世界感を持った作品にしている。生活の中で、幼子を観察した記憶が創造させたモノだろうか。作品をじっと見ていると、自分自身の記憶の中から温かさや優しさが引き出だされていった。

作品賞:非線形方程式

作者:913WORKS(蝶律師)
緑色の羊歯群(シダ)の中に、鮮やかな蝶が群れを為す。そこには透明なiPhoneケースが潜んでいる。何故、蝶の集まるところにケースがあるのだろうか、それとも蝶はケースから飛び立とうとしているのだろうか。線形方程式であればその謎は直線的なグラフをともなう解として分かりやすい形で表れるだろう。だが、非線形方程式の中での解答は無い。

アーティストは非線形方程式の様な滑らかな曲線を描きつつ、次の予測が立たない思考の中で形として表現していく。生物のすべてがそうである様に、明確な未来予知は出来る物では無いと分かった上で地球の上に存在する。この作品キャプションには「部屋の中のインテリアとして…」と書かれているが、作者自身が植物も動物も、総て自然の中で息づくモノたちをモチーフにして、人間のエゴを飲み込み、新しい世界を生み出していく姿を表現しているように、私には思えた。

優秀作品賞:祝いの刻(とき)

作者:こじぞう(ガーデンクリエーター)
伊豆下田に行くと黒と白の強いコントラストを持つなまこ壁がたくさん見られる。とても美しいモノだ。この作品は、なまこ壁をモチーフにしたと書かれているが、作品中になまこ壁は存在しない。今回のiPhoneケース展のテーマである「ANNIVERSARY=祝い」に基づき制作されているものの、肝心の書体は稚拙で、蔵としての造作も何処まで考えて制作しているのだろうと考え込んでしまう。しかし、何故だろう。この中には何故か不思議な力強さを感じる。

伝統的な技術に根ざした作品は、技術力の高さによる美しさで訴える力を持つ。しかしその美しさは、その場限りの美しさとなり、次の瞬間には忘れ去られることも多い。この作品は新進の作家の手によるモノであるにもかかわらず、ずっしりした存在感がある。本職はガーデンクリエーター。その仕事を通して得た、様々な経験が、力強さとなって表現されているのだろう。次の作品が楽しみで仕方が無い。

最優秀作品賞:獰猛

作者:天(マスキングテープアーティスト)
スズメバチは作品フレームの枠を貫き、iPhoneケースその物も貫き通す。作家は昆虫をモチーフにした作品を生み出していきたと言う若手アーティストだ。今回のモチーフであるこのスズメバチの動きは、自分自身の欲望や葛藤を表すようだ。近年流行のマスキングテープアーティストという肩書きを持ちながら、その枠組みには入りきらない広がりと可能性を感じる。

iPhoneケース展では、展示の基本と透明なケースと木製のフレームが提供される。例年開催している横浜赤レンガ倉庫の展示では、壁かけ展示しかできず、この様な平置きスタイルの作品は、展示が不可能であった。
この作家は初出展と言う事もあってか、そうした決まり事が無かったかのように自分のイメージを追求する力強さがある。ベースとなる枠、マスキングテープアートの世界が持つ枠、その様な枠は無かったかのように打ち壊し、スズメバチと枠を溶け込ませ、「獰猛」の持つパワーが作品から外の世界へと広がっている。今後の作品に期待が高まる。